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I Can't Win Forever

Anorak citylightsの日記部門です。

My First Stroke

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とにかくSTROKESについて書いておきたい。正確には、彼らのセカンドアルバム「Room On Fire」について書いておきたい。

ルーム・オン・ファイア

ルーム・オン・ファイア

説明不要なのは百も承知、STROKESといえば2000年代を象徴する重要バンドであり、その影響力はRADIOHEADも余裕で凌駕すると思っているところ。
本作がリリースされたのは2003年の10月。当時僕は18歳、高校3年生だった。パンクしか信じていなかった僕が本作を手にとったキッカケは本当に些細で、愛読していたクロスビート誌の新譜レビューで5点満点を獲得していたからだ。元々基準がユルユルで4点がデフォルトだった同誌のレビューだったが、満点を見たのは初めてだった。そのオシャレ臭プンプンなアルバムジャケットにも惹かれた。進路も決まり最早消化試合となっていた午後の授業中、僕は購入を決意した。高校生でお金がないくせに音源に対する購入のハードルは低すぎたよね。

購入を決意したその日の放課後、古河市イトーヨーカドーの新星堂に向かった。「もしかしたら入荷してないかもしれない。RADIOHEADのHail to the theifさえ入荷しなかった古河の新星堂ならあり得る」
しかし僕に選択肢は無かった。定期券で行けるCD屋はここの他にない。
少し緊張しながら足早に新譜コーナーに向かうと、棚の隅に鎮座する本作を発見した。天にも昇る気持ちだ。こんなクソ田舎の寂れたCD屋に似合わないモダンで洗練されたジャケット!アルバムを手にとると反射したケースにニューヨークの景色が映った気がした。

おばあちゃんから貰った1000円札を3枚出してCDを購入し、ポッポ(イトーヨーカドーが世界に誇るフードコート)で山盛りポテトを食べながら封を開け、ディスクをCDプレイヤーに突っ込んだ。
再生ボタンを押して間もなく、僕は失望した。
「全然良くねえじゃん…」
スッカスカのアンサンブルにやる気の欠片も感じないボーカル、単調なエイトビート
無理もない。毎日パンクしか聴いておらず、JAWBREAKERやCRIMPSHRINEに溺れていた18歳の少年にはまだSTROKESを理解するだけの素養は無かった。要するに、早すぎた。
「こんな事なら素直にコンドームでも買い溜めしとけば良かった」
少年にとってSTROKESはコンドーム以下。翌日、僕はクラスメイトの瀬川にアルバムを1000円で売った。瀬川は喜んでた。そりゃそうだ、世界的に注目されてる最新のロックアルバムが1000円だ。でも僕にはゴミだった。1000円で少し高級なコンドームを買った。

2004年、大学への進学と共に上京、世界が急激に広がり許容できる音楽の幅も広がった。
膨大な時間を音源のディグに使うようになり、とにかくどんな音楽でも聴いてみたかった。パンクから外の世界を見ようとしていた。借りていたアパートに程近い祖師ヶ谷大蔵DORAMAには毎日通った。中古コーナーからは毎日お宝ばかり見付かり、季節は収穫の時期を迎えていたのだ。ここで僕は再びSTROKESを発見する。
パンクが好きなゼミの先輩とキャンパスの噴水前で話していると、彼の口から意外な言葉が飛び出す。
「いやー、LeatherfaceとかLos Crudosよりも、やっぱSTROKESのファーストっしょ」
「STROKESってあのSTROKESっすか?僕セカンド聴いて大失敗したんすよ」
「マジ?確かにSTROKESはセカンドでスベったような空気出したけど、十分カッコ良いじゃん。てか、ファーストの方がヤバいから聴いてみ。」
Leatherfaceよりもカッコいい音楽があるのか?
半信半疑のまま直ぐにDORAMAに駆け込んだら案の定700円で売っていたよ、「Is this it ?」。
1曲目からぶっ飛ばされた。
「STROKESってこんなにカッコ良かったの!」
デザインし尽くされたタイトな音像の隙間から溢れる眩しい初期衝動の応酬。鼻歌のようなメロディは一発で耳に残る。パンクとは違ったベクトルから放たれる熱量。
18歳の自分がコンドーム以下だと判断した「Room on Fire」も買い直す。
あの頃とは全く違う風に聴こえる。何だかOrange juiceやMonochrome setやFeltの亜流にも見えるし、骨抜きになったtelevisionにも見えるし、少しトロピカルになったVelvet undergroundにも見える。とにかく色々な聴き方ができて、凄くタイムレスな空気を纏っているように感じる。こりゃ特別だ。
それからSTROKESは特別なバンドになった。
あれから彼等は何枚かアルバムを出したけど、僕にとっては「Room On Fire」だ。再発見から10年ぐらい経つけど、未だによく聴くし、これからも聴く。聴くタイミングによってどんどん聴き方が変わっていって楽しい。今の「Room On Fire」はジャングリーに成熟した平行世界のOrange juiceなんだ。明日はきっとまた別の何かに変わるんだろう。